2019.10.24
【公演レポート】ミュージカル「サタデーナイトフィーバーUKツアー
8月某日、英国サザンプトンの大劇場Mayfair Theaterはほぼ満席。バンドがビージーズの「ステイン・アライブ」を演奏し始めるなり、観客は思い思いに身を揺らし始める。ビージーズ役の歌手たちのファルセット・ボイスが響く中、ステージに颯爽と現れる主人公・トニーを演じるのは、マシュー・ボーンの振付作品で日本でも人気の、リチャード・ウィンザー。70年代に一世を風靡したディスコ・ダンスもこの人の手にかかると魔法のように滑らかで美しく、劇中の女の子たちがトニーにため息をつくのももっとも、と頷いてしまう。
物語は、社会の底辺に生きる若者たちが500ドルの賞金を目指してダンス・コンペに挑む様を描くが、単純な成功物語ではなく、ハードな環境の中でもがきながら自分らしい生き方に目覚めるまでの過程を、芝居とダンスの絶妙のバランスで見せる。「もともとはダンサーというより役者」と自認しているリチャードが、原作映画の癖のあるトニーの口跡を踏襲し、“欠点もあるが愛すべき、複雑な主人公”を演じ切る姿も見どころだ。
カーテンコールではたっぷりとダンス・ナンバーがリプライズされ、総立ちの観客も見様見真似で大盛り上がり。終演後の楽屋にリチャードを訪ねて話を聞いたところ、演出のビル・ケンライトがリチャードの出演していた人気ドラマ『カジュアルティーズ』のファンだったことで、彼から直接、出演依頼の電話があったのだという。
「もともと映画版の『サタデー・ナイト・フィーバー』が好きだったこともあって、“今”の視点でこの物語を改めて舞台化したいというビルの構想に魅力を感じたんだ。自分なりに70年代のNYブルックリンの労働者たちの暮らしをリサーチして、希望の見えない中で、トニーたちにとってディスコで踊るということがいかに大きな意味を持っていたかも理解できた。
新演出の初期段階からかかわったので、トニーの苦悩を描いた後半のソロ・ダンスでは、振付のビル・ディーマーが僕のアイディアを随分取り入れてくれたよ。ディスコ・ダンスにこのコンテンポラリー風のソロ、そして社交ダンス風のデュエットと、様々なダンスを楽しんでいただけると思う。12月の来日公演では、ぜひカーテンコールで日本のお客さんたちも一緒に踊ってくれたら嬉しいね」。
既に来日は8回、そのうち公演での来日は6回を数え、グルメを含めて日本は大好きというリチャード。「それでも冬の東京は初めてだよ」、と来日が待ちきれない様子で語ってくれた。
松島まり乃(シアター・ジャーナリスト)